勇気と涙と歓声と








チャレンジカップ、賞金王に出れるか出れないか最後の砦。
皆、必死になって頑張っている。
もちろん、私も。

「ん〜・・・流石に賞金王のハードルは高いなぁ・・」
「まっ、これで最後って訳じゃないし、来年頑張ろうっ!」

自分に気合を入れながら、整備室を出る。

「おっ、ちゃんやないか〜」
「蒲生さん」

丁度整備室から出た時、蒲生さんと会った。
初めて会った時は、不思議人だなって思った。
その後、レースで会ったり話したりしてる内に、不思議な人から気になる人に変わって・・・
今では、憧れの人兼私の好きな人だったりする。
こんなこと、恥ずかしくて本人には口が裂けても言えないけど・・・

「今日の優勝戦、頑張ってくださいね!」
「おうっ、楽しみにしといてや」
「波多野くんのXモンキーは、どう対処するんですか?」
「ん?そんなん一対一で勝負するに決まってるやろ」

得意げな表情から、急に真剣な顔になる。
この顔が私は何より好きなのだ。

「蒲生さんなら、きっと勝てますよ。モニターで応援してますから」
「おう!頼んだで」

そう言って、笑ってくれる。
あぁ、やっぱり好きだなぁなんて、再確認。

「それじゃ、行って来るわ」
「はい!気をつけて」

何となく、蒲生さんが何かやらかしそうで、私は蒲生さんの後姿から目が離せなかった。



優勝戦が始まり、モニターを食い入る様に見つめる。

「えっ!?蒲生さんっ!」
「ん?どうした
「あ、いえ・・・」

モニターには6コースにいた蒲生さんが、1コースに艇を向けている所だった。

蒲生さんの過去。
前回のSGで、教えてくれた。
今までSGに出場しなかった訳。
SGの大舞台でフライングをした事。
お客さんからの罵声。

どんな気持ちでその声を受け止めたんだろう。
蒲生さんは、どんな気持ちだったんだろう。
そう思うと、涙が止まらなかった。
遠慮もなくボロボロ泣いた。
榎木さんも、蒲生さんも呆れたように笑っていたけど。

「蒲生さん・・・・本気なんだ」

ギュッと胸の前で手を握る。

大丈夫、蒲生さんならきっと大丈夫。

そう言い聞かせながら、最後までテレビのモニターから目が離せなかった。
レース結果は、蒲生さんの優勝で終わった。
もちろん、フライングもしていない。
蒲生さんが一番でゴールしたのを見た瞬間、私は部屋を飛び出していた。









ピットに出ると、お客さんの歓声が聞こえてきた。
罵声じゃなく、溢れんばかりの歓声。
嬉しくて、本当に嬉しくて、私は溢れる涙を抑える事が出来なかった。
そう、蒲生さんに声を掛けられるまで、戻って来てた事にすら気付かなかった。

ちゃん?どないしたんや。なんやピットに用事でもあったんか?」
「が、蒲生さん・・・ッ」
「えッ!?」

まだカポックを着たままの蒲生さんに抱きつく。

「蒲生さんッ・・・おめで、とうっ、ございますッ」
「え、ちゃん?なんや、泣いてるんかッ?」
「ご、ごめんなさいっ。嬉しくてッ・・・蒲生さん優勝するし、フライングじゃなかったしッ」
ちゃん・・・」

震える声で、でも伝わるようにしっかりと話す。

「が、蒲生さんが壁を乗り越えたのがッ・・・嬉しくて、すごくてっ・・」
「ありがとうな、ちゃん」
「・・・・ッ!」

声が出せず、首だけを横に振る。
嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。
それでも、蒲生さんは私が泣き止むまで頭を撫でてくれていた。


「す、すみませんッ!着替えもまだなのに・・」

まだ少し鼻声で、頭を下げる。

「別に気にせんでも、ええて。俺の為に泣いてくれたんやしな」
「でも・・・」
「それやったら、優勝祝いの晩酌、付き合うてくれるか?」
「・・・私でいいんですか?」
「ええもなにも、大歓迎やでッ」
「はいッ、喜んで」

ズズッと鼻を啜りながら笑う。

「じゃ、また後でな」
「はい、お疲れ様でした」

はぁ〜と息を吐き出し、心を整える。
そして、グイッと目元を袖で拭って、歩き出した。



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