おはようだけで精一杯なのに。
普通の会話なんて、遠い未来の事。








モーニングトーク














「おはよう、黒崎くん」
「おう、はよ」

スッと自分の席に向かう彼。
その姿を見ながら、深いため息をつく。
こうやって挨拶をしてため息をつくのは、一体何度目だろう。
どうしてもっと話せないのだろう

「おはよう!さ〜んッ!」

朝からハイテンションの浅野くんに苦笑する。
羨ましいくらい、黒崎くんと話す姿を見る。
その度に、少しだけヤキモチをやいていたり。

「おはよう、浅野くん。今日も元気だね」
「あれ?さん、元気ない?」

後ろからひょこりと、小島くんが顔を出す。
俺のセリフがぁぁと騒いでいる浅野くんを押しのけて前に出る。

「うーん、いつもの事だから」
「あー、一護の事?」
「しッ!!声が大きいよッ」

静止しても遅かった。
小島くんの声は、バッチリ黒崎くんに聞こえていて。

「なんだ?俺がどうしたって?」

眉間に皺を寄せたまま、黒崎くんが近寄る。

「何でもないよ。啓吾が朝からうるさいなって話してただけだから」

ね、さん。といきなり私にふられる。
ニコリと可愛らしい笑顔を浮かべながら。

「え?あ・・・そ、そうだねっ」
「あー、まぁな。本当にウザイなら言った方がいいぜ、さん」

初めての挨拶以外の会話。
私の名前を呼んで、返してくれて。会話が出来ている。
恥ずかしくて、それでもすごく嬉しくて。
チラリと小島くんを見ると、ウィンクで返してくれた。

「いっちぐぉぉっ、なんて事言うんだよーー!!俺達友達マブダチだろ!?」
「あぁ、そうだなー」
「なんだー、その返事はぁぁ!」

暑苦しいくらい、黒崎くんに纏わりついている浅野くん。
それを面倒そうに振り払う黒崎くん。
本当に浅野くんが羨ましい。
もう少し、あそこまでじゃなくても自分を出せたたらいいのに。
勇気を出せたらいいのに。

「ん?何?」

ふと、黒埼くんと目が合う。
カッと顔が熱くなるのが分かった。

「え?!あ、や・・・・な、仲がいいなと思って」
「やっぱり!?さんもそう思うよなぁ!!」
「うん、羨ましいよ」

ポロリと本音が出る。
けれど、その本音の本当の意味にはきっと気づいていない。
小島くん以外は。
その証拠に、

さんも、抱きついてみたら?」

いきなり突拍子もない事を言い出した。

「一護も啓吾みたいなムサイのより、さんの方がいいでしょ?」
「そりゃ、その方がいいけど。お前それ、さんの気持ち無視じゃねぇか」

私の頭はすでに、パンク寸前で。
シューシューと音を立てていた。
私でもいいと言ってくれた。本当に嬉しかった。
泣きそうなくらいに。

「あ、それもそうだね。ごめんねさん」
「え、あ!ううんッ!全然そんな事ないよ!!」

ブンブンと音がなりそうなくらい、手を横に振る。
真っ赤な顔を隠すように、目の前で。
恥ずかしさに立ち上がろうとした時、予鈴が鳴った。
ガタガタと席に着く生徒達。
もちろん、黒崎くんも浅野くんを引き連れて、席に着いて。

「これで明日から、少しは楽になったでしょ」

小島くんが耳打ちする。

「や、やりすぎだよ〜」
「ま、これぐらいやらないとね」

意地の悪い笑みを浮かべながら、小島くんも席に戻る。
はぁ、と息を吐き出す。
さっきとは違う意味の、ため息。
ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながら、黒崎くんの背中を見つめた。



『お、おはよう、黒崎くんっ。あのねっ』



そう頭の中でシュミレートしながら。
私は、今日一日を上機嫌で過ごした。









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