Serenade












「はぁ、疲れた」

シミュレーションを終えて、自室に戻る途中。
長い通路を重い足取りで歩く。

「また、やっちゃった」

はぁと何度目かのため息を吐く。
状況に振り回されて、しっかり対応できない自分。
そんな自分が嫌で仕方がない。
もっと冷静に対応しなくちゃいけないのに。

「これが戦場だったら、私即死だよね」

シュッとドアが開く。
暗い部屋に、パッと明かりをつける。
けれど、気分は少しも晴れない。

「もう、寝よう」

もそもそと寝巻きに着替え、ベッドに潜り込む。








ビーッ





「わ!何?!」

数分なのか、数時間なのか分からない。
寝ぼける頭で、時計を見る。
2時間が過ぎた頃だった。

「誰?」
「俺だ」

モニターで相手を確認する。
そこには、会いたくなかった相手。

「イザーク」
「開けろ」

ロックを解除して、ドアを開ける。
目に飛び込んだのは、ふんぞり返っているイザーク。

「お前飯は」
「うーん、眠たい」

食欲がないとは言わず、眠たいと言う。
あながち嘘ではないけれど、本当でもない。
予想通り、怪訝そうな顔をする彼。

「シャキッとしろッ」

フンッと偉そうに言う姿に、少し苛立ちを覚えて。

「ほっといてよ、イザークに関係ないでしょ」

イライラした声が出た。

「な、貴様ッ、その態度はなんだ!」

短気なイザーク。
こんな言葉にも、怒りを露にする。
イザークのこの素直さが、時々羨ましいと思う。

「なんでもないって言ってるでしょ!?」
「それが、何でもない奴の態度かッ!」
「うるさい!イザークに私の気持ちなんか分からないわよッ!」

売り言葉に買い言葉で、いつの間にか口論になる。
お互いに、一歩も引かない

「そんなこと知るかッ、大体お前はいつも何も言わないだろ?!」
「言ったって仕方ないから言わないのよッ」

言った後に、ハッとする。
苦虫を噛み潰したような顔。

「言ったって仕方ない・・・だと?」
「・・・・・ごめん、言い過ぎた」
「そんなに俺は頼りないか」
「そういう意味で言ったんじゃないのっ」
「・・・・・・」

無表情のイザーク。
頭に血が上って、言うつもりのない言葉まで言ってしまった。
後悔しても仕方がない。

「ごめんなさい。言っても仕方ないって言うのは、イザークが頼りないからとかじゃないの」
「じゃ、何だ」
「私の力不足なだけ。もっと頑張れば何とかなる問題だから」

シミュレーションの成績が悪いのも、冷静に見れないのも。
すべて自分が起こしている事。
もっと、もっとしっかりすれば・・・

「バカかお前は」
「バカってッ」
「お前は人に頼らなさすぎなんだよ」

コツと一歩ずつ近くなる距離。

「自分でなんとか出来ないから、こうなんてるんだろうが」
「それは・・・・・・私の頑張りが足りないから」
「俺から見れば、お前は頑張ってる」
「でもッ」

目の前でイザークが止まる。
見据える瞳。

「なら、俺が見てやる」
「え」
「シミュレーションでも何でも、俺が叩き込んでやる」
「イザーク」
「愚痴でも、弱音でも全部聞いてやる」

優しく彼の胸に抱かれる。

「一人で背負い込むな、何の為に俺がいると思ってるんだ」

少し怒ったような声。
けれど、心配してくれているのが、よく分かる。

「・・・・ありがとう」

背中に腕を回し、ゆっくり目を閉じて彼を肌で感じる。





















「このヘタクソッ!」
「なッ、ヘタクソはないでしょ!?」
「ヘタだから、ヘタと言って何が悪いッ」
「イザークの教え方が悪いんでしょ!?」
「貴様ッ、人のせいにするな!」

それから数日間、こんな二人の会話が響き渡ったとか。







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