「捕まるなよ」
そう言ってくれた彼。
とても嬉しかった。
船上ラブロマン 4
頃合を見て、倉庫から抜け出す。
はぁと溜息をついて、彼が歩いていったであろう方向を見る。
見ても彼はいないのに・・・
「せんぱーい!!」
「桃?!」
「はぁ、よかった〜、無事で」
ふいと声がする方に、首を向ける。
息を切らしながら駆け寄ってくる桃。
「ごめんね、大丈夫?」
「こんぐらい大丈夫っすよ!」
ニカッと笑いながら。
さすが青学テニス部だなと、思った。
日頃の練習をこなしているメンバーには、これぐらい何ともないのだろう。
「とにかく、逃げましょ!」
「うん!」
は、桃と前方しか見ていなかった。
その後ろに、追っ手がいるなんて、気付きもしなかった。
グイッと腕を引っ張られた。
「きゃッ!!」
「先輩!?」
「大人しく、付いてきてもらおうか」
捕まった。こうもあっさりと。
キッと睨むが、男たちは下卑た笑いを浮かべるだけで。
掴まれている手が、気持ち悪い。
「ごめんね、桃」
「先輩のせいじゃないっすよ」
銃口を向けられ、達は従うしかなかった。
連れて来られたのは、桜吹雪のいるデッキ。
悠々と葉巻を吹かしていた。
苦い匂いに、顔が歪む。
「青学メンバーのおそろいですな」
フンと鼻で笑う。
顔も見たくなくて、下を見る。
下には丁度テニスコートがあって。
リョーマくんと、彼の試合が始まっていた。
「リョーガくん」
青学も、彼も負けてほしくない。
けれど、勝負はそんなに甘いものではない。
それはも身に染みて分かっていた事だった。
ボーッと下を見ていると、黄色いボールがこっちに向かって飛んできた。
「ぐあッ!!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
声のした方を見れば、コックが目を回して倒れていた。
傍にはテニスボールが一つ転がっていた。
彼が、当てたのだ。
「ぐおッ!!」
次は、リョーマくんだった。
見事に桜吹雪に命中している。
「よし!今の内だ!」
大石のその声を合図に、一斉に動き出す。
それでも、私は二人の試合が気になって。
「ごめんね、私行かなくちゃっ」
「あ!ちゃーん!」
後ろで呼ぶ声が聞こえたけれど、止まれなかった。
は、夢中でコートに向かって、走っていた。
あと少しでコートに着く、その時だった、
「きゃっ!!何?!」
大きな爆発音と共に、船が激しく揺れた。
立っている事ができず、は膝をついた。
「後少しなのに・・・っ」
「さん」
顔を上げると、手塚がこちらに向かっていた。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気よ」
「それなら、今すぐにここを離れてください。危険です」
「え、でも・・・二人は?」
「あの二人なら大丈夫です。早く救命ボートで外へ!」
後ろ髪を引かれる思いで、は手塚の後を追った。
「来た」
「本当だ!おーい!手塚ー、ちゃーん」
「よかった、ちゃんも平気そうだね」
英二が大きく手を振っているのが見えた。
その傍で、メンバーが安堵の色をみせていた。
救命ボートに乗る直前、どうしても気になってコートがある方向を見る。
見ても、彼が見えるわけじゃないのに。
けれど、心は確かに彼を求めている。
たった数日しか過ごしていないのに・・・
「乗るなら、早く乗った方がいい。ここも危ないからな」
乾の声に急かされるように、救命ボートに乗る。
「リョーガくん・・・・」
祈るように、手を胸の前で組む。
どうか、二人が無事で出てきますように。
どうか、彼が無事で・・・
「あ!オチビ達だっ!!」
英二の声にハッと顔を上げる。
ボートに乗って勢いよく飛び出してくる、二人が見えた。
「よかった・・・・」
気が抜けたのか、は床に座り込んだ。
「?!」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめん、安心して」
手塚と不二が、声を掛ける。
返事をしながら、は立ち上がり、もう一度ボートを見る。
「!!」
名前を呼ばれ、ボートを操縦している彼を見る。
「来いよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる彼。
その表情から目が離せなくて。
もう、抑えられなかった。
「私、行って来るねっ」
「「「えっ!?」」」
近づいたボートに飛び乗り、彼の背中にしがみ付く。
「しっかり、捕まってろよ」
「うん」
「じゃーな、チビスケ」
一際大きく音を上げ、メンバーのいるボートから離れていく。
「っ」
前を向いたまま、彼が名前を呼ぶ。
「何っ?」
「俺が、この船にお前を誘ったんだ」
「え・・・」
「偶然ビデオでチビスケを見つけた時、一緒に映ってたんだよ」
モーター音の為、いつもより大きな声で話す。
「それ・・・」
「ま、俺の一目惚れってやつ?」
一瞬振り返って、ニカッと笑う。
その笑顔が、オレンジ色の夕陽に染まって。
は、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
目一杯スピードを出していたのを、少し抑えて。
ゆっくりと速度が遅くなる。
「が、好きだ」
「リョーガ、くん」
嬉しくて、嬉しくて。
は、思いきり後ろから抱きしめた。
「同じって、思っていいの?」
「うんっ、私も好きよ」
これでもかってぐらい、想いを込めて抱きしめる。
「・・・サンキュ」
少し照れたような声。
そして、またモーターを全開にする。
「とりあえず、陸地目指すぜッ」
変わらず前を見据える瞳。
これからもずっと、そうなんだろう。
そして、それを一番近くで感じられる。
その事に、は大きな幸せを感じた。
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