八百長試合なんて、どうしてそんな事を言ったの?
船上ラブロマン 3
大切な試合だと言うのに、達は部屋に閉じ込められていた。
今は、手塚くん、不二くん、リョーマくんがテニスコートに向かっている。
「はぁ、どうしてこんな事に・・」
「ちゃん、大丈夫〜?」
英二が心配そうに覗き込んでくる。
「うん、大丈夫。ただ・・・」
彼の事が気になって仕方なかった。
「あの3人なら、大丈夫ですよ」
大石くんが、にっこり笑いながら肩をポンと叩く。
「そう、だよね」
「大石先輩、先輩!何やってンすか!」
「桃?」
「逃げますよッ!!」
見れば見張りのコックが青い顔をして倒れていた。
「・・・何したの?」
「ちょっと、これをね」
そう言って乾が出したのは、デカデカと『乾』と書かれたドリンクだった。
「あー、乾汁かぁ」
思わず苦笑する。
何も知らずに餌食になったコックに少し同情する。
「さぁ、今のうちだ!」
達は、部屋から飛び出した。
「もう!しつこーい!」
走って、走って。
逃げて、逃げて。
それでも追ってくる追っ手。
バラバラに、逃げれば、一人で逃げる嵌めになった。
「どこまで付いてくるのよッ!!」
ハァ、ハァと肩で息をしながら、は走る。
けれど、少しずつ追っ手との距離は縮まって。
捕まる。そう思い長い廊下の角を曲がった時だった。
「きゃッ!?」
扉から伸びた腕に、は捕まった。
グイッと中に引きずり込まれる。
「や!・・・いや、離してッ!」
「お、おい、暴れんなって」
「っえ?その声・・・リョーガくん?」
驚き、勢いよく後ろを振り返る。
「うわっ、いきなり振り向くなよ」
そこには、驚いている彼の顔が映った。
「な、なんでここに!?試合は?」
「まだ俺の出番じゃないんでね」
笑いながら、ラケットを器用に回す。
その笑顔は、八百長試合なんて言うような表情じゃなくて。
「なァ、」
ラケットを回すのを止め、に向かい合う。
「何?」
倉庫なのか、少し薄暗くて。
薄暗さにやっと目が慣れてきた。
彼の顔もちゃんと見えるぐらいに。
「ごめんな」
ただ一言謝った彼の顔が、あまりにも切なげな顔で。
は思わず抱きしめそうになった。
「好きでやったんじゃないんでしょ?」
「・・・・・」
「リョーガくん」
返答がなく、聞き返す。
「俺は、テニスができればそれでいい」
真っ直ぐな瞳で前を見つめる。
テニスが大好きな彼。
好きな事に一生懸命で、羨ましくなる。
「じゃ、そろそろ行くわ」
「うん、ありがとう」
「捕まんなよ」
最後に笑って、彼は出て行った。
は一人、彼の出て行った扉をただ見つめていた。
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