「あなたはだぁれ?」
それが私とスティングの出会いだった。
S E A
私はいつも海を見ている。
特に好きってわけではない。
ただ、やる事もないから。
けれど、その日は別で近くで海を見たくなって。
私は、こっそり病室を抜け出した。
「気持ちいいー」
冷たい海に足をつけると、心地よかった。
パチャパチャと水を蹴る。
はねる水飛沫。
不意に、目の端に人影が映った。
顔を向けると、男の人が一人こちらに歩いてくる。
「見かけない顔」
ポツリと呟きまた海に視線を戻す。
けれど、どうしても気になってもう一度男の人を見る。
顔を上げた瞬間、パチリと目が合った。
思い切って声をかけようかな。
あぁ、でも変に思われるかな・・・
私が悩んでいると、向こうから話かけてきた。
「その腕」
以外にも低い声。けれどこの水のように心地いい。
「腕・・・?」
私は、自分の腕を見た。
そして、ある事に気づき苦笑する。
私の腕には、鬱血の後がある。
普段日に当らない白い肌に、青黒い痕。
「これは注射と点滴のあとだよ」
「お前、病気なのか?」
「うん。治らないって言われてる病気」
躊躇う事なく答える。
「そりゃ・・・・悪かった」
少しバツが悪そうに謝る彼。
「どうして?」
この事を話すときまって皆謝る。
私には、大したことじゃないのに。
どうして謝るのか、分からない。
「どうしてって・・・・お前」
彼の顔が更に困惑する。
「だって、私は生きてるのに」
「・・・・・」
彼が目を丸くする。
そんなに驚くような事、言ったっけ?
「治らないだけで、私は生きてるでしょ?」
それが当たり前だと言うように。
と言うより、私には当たり前のことで。
彼はフッと顔を崩すと、
「あぁ、そうだな」
と初めて笑った。
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