広海お兄ちゃんの
災
難
「やっぱ、たまに見ると血がざわつくっていうか」
「そうか」
リビングで大ちゃん、陽一、広海お兄ちゃん達が話している。
内容は、どうらやサッカーの試合についてらしい。
明日学校に持っていくお菓子を作りながら、右から左にながす。
「んで、北高に高坂と緒方がいてビックリした」
お菓子作りをしていても、この二つの単語だけは聞き逃せなかった。
「え!?拓ちゃんと高坂さん!?ランチャーズの?」
「え、あぁ、そうだけど」
勢いよく振り向くと、広海お兄ちゃんの面食らったような顔。
「にしてもお前、よく覚えてるよな」
「当たり前だよ。だって拓ちゃんと高坂さんだもん」
にっこり笑顔で言えば、そうかよと答えが帰ってくる。
「で、二人とも元気だった?」
「あぁ。つか緒方があまりにも豹変してて、俺気付かなかったし」
「えぇ〜!私も二人に会いたいー!お兄ちゃんだけずるい!」
タオルで手を拭きながら、広海お兄ちゃんに歩み寄る。
「知るかよ、んなの」
「番号とか聞いてないの?」
「何ムキになってんだよ」
呆れた顔で、問われる。
「だって、お兄ちゃん達以外で初めて好きって思って人だもん」
「「はぁ!?」」
「それは、また・・・・」
三者三様の驚き方。
見てるこっちが可笑しくなって、クスっと笑みを零す。
「おまっ、それって緒方が初恋の人って事か・・・?」
「ん〜、それが微妙なのよねぇ」
「でも、さっき初めて好きって言っただろう?」
「言ったけど、それがLOVEかLIKEかは分からないって事」
「あぁ、そういう事か」
三人がため息をつく。
「だから、会ってみたいのー!話したいのっ」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ私に、とうとう陽一お兄ちゃんが口を出した。
「広海、携帯貸してやれ」
「えぇ!!俺ので掛けるのかよ!」
「のからだと、向こうは誰からか分からないだろうが」
「そうだけど・・・・ったく!」
そう言って、広海お兄ちゃんが電話をかける。
相手はもちろん拓ちゃん。
ほどなくして、相手が出たらしい。
「おう、緒方?悪いんだけど、お前と話したい奴がいるんだよ。今からそいつにかわるから」
「ほら」
「ありがとうッ」
満面の笑みでそれを受け取り、ドキドキしながら耳に当てる。
「もしもし、拓ちゃん?」
『・・・その声、呼び方・・・・ちゃん!?』
「わ!覚えててくれたの!?」
『おう、つか忘れろっていう方が無理だって』
受話器の向こうで苦笑してるのが、分かる。
『俺と話したい奴って、ちゃんの事だったのか』
「うん!さっきお兄ちゃん達と試合の話してて、で拓ちゃんと高坂さんの話題が出たから」
『ふ〜ん、話題ねぇ』
「あ、それよか試合!頑張ってね!」
『おう!つーか、応援には来てくれないんだ?』
一瞬の間の後、私は大笑いした。
その笑い声に、何事かと皆が私を見る。
「あははッ!変わらないねっ、拓ちゃんは」
『おいおい、笑う所じゃねぇだろ』
「ごめん、ごめん。あまりにも変わってなくて」
『で、応援には来てくれんの?』
「私でよければ、喜んで。あ、あと高坂さんにもよろしく」
『りょーかい。んじゃ、楽しみにしてるぜ』
通話を切り、そばにいた広海お兄ちゃんに携帯を返す。
「緒方、何て言ってた」
ムスッとしたまま、広海お兄ちゃんが聞く。
「試合頑張ってねって言ったら、応援には来ないのかだって」
「・・・あいつ」
「だから、次の試合応援に行くことにした」
「「はぁッ!?」」
大ちゃんと、広海お兄ちゃんの声がハモる。
「え、何、ダメなの?」
「お前なぁ〜・・・」
「、応援に行くなら誰か連れていけよ」
「え、何で?」
「いいから。でなけりゃ応援には行くな」
「えぇー!!そんな横暴なぁ」
「分かったな?」
陽一お兄ちゃんに逆らえるはずもなく。
「分かった。なら、広海お兄ちゃん連れて行く。それならいいでしょ?」
「あぁ、いいぞ」
「おい!二人して何勝手に決めてんだよ!」
「次の試合は、来週の日曜だったな。広海一緒に行ってやれ」
「ま、まじかよ、兄貴〜ッ」
突然降りかかった火の粉に、抗議するお兄ちゃん。
「行ってやれよ。どうせだけじゃ、場所分かんねぇだろうし」
「大地ー!てめぇ、人事だと思いやがってッ!」
「広海お兄ちゃん、お願いッ!」
パチンと顔の前で手を合わせる。
暫くの沈黙の後、溜息と、分かったよ!とヤケクソな声が聞こえてきた。
「いいの!?」
「兄貴がうるさいからな。いいか、来週だけだからなッ」
「うん、ありがとうッ」
そこでチンッとオーブンから音がする。
「あ、出来上がったみたい〜」
「クッキーか?」
「うん、皆も食べる?」
「それじゃぁ、もらおうかな」
そうして、家の夜は更けていった。
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