言えない理由









「行ってきます」

勢いよくドアを開け、外に出る。
今日の天気は晴天。
絶好のピクニック日和だ。

「はよ」
「おはよう、一護」

いつものバス停で一護と待ち合わせ。

「それじゃ、行くか」

スッと出される手。

「ん?何?」
「荷物、重いんだろ?」

苦笑しながら、一護が言う。
昔から変わらない優しさ。

「あ、ありがとう」

彼にとっては普通の事なのかもしれない。
けれど、私にとっては違う。
すごく、嬉しかった。
そして、もう一度差し出される手。
私はそれを、左手で受けた。



「わ〜!見晴らし最高だね!」
「ここは、穴場だからな」

得意げな一護。
さっきと変わって、少し子供っぽい表情。
思わず、笑ってしまう。

「何笑ってんだよ」
「べっつに〜」

意味ありげな視線を送りつつ、丘から街を見下ろす。
私達の住む、空座町が一望できる。

「あそこらへんが、一護の家だよね」
「お前の家は、あっちだな」

お互いに指で示す。
何度か行った事のある一護の家。
もちろん、一護も私の家に来ている。
何気ない話をして、笑いあって、キスをして、
そんな時間が私は大好きだった。

「このままずっと、変わらないでほしいな・・・」

ポツリと呟いた言葉に、ピクリと一護が反応する。



真剣な声で呼ばれ、思わずドキッとする。

「俺が、護るから」
「一、護・・・?」

普段と全然違う雰囲気。
まるで、別人のようで。
でも、何かを覚悟したような声。

「俺がこの街も、お前も護るから」

『何から?』とは聞けなかった。
聞かなくても、知っている。
前までは、殆ど見えなかったのに。
最近ではハッキリ見えてしまう。
大きくて、怖いモノが。
心配性の一護には、まだ言っていない。

「うん、ありがとう」

素直な返事に、一護が面食らった。

「聞かない、のか?」
「聞いてほしいの?」

すかさず私は、切り返す。
本当は、まだ聞いてほしくないくせに。

「・・・・・」

案の定、沈黙での返事。
それじゃ、肯定しているのと同じだよ?

「聞いて欲しくないんでしょう?一護が言いたくなった時でいいよ」
・・・・・悪ぃ」

シュンとして、謝る一護。
先程とのギャップに、私は苦笑する。

「謝る事じゃないでしょっ。一護が悪い訳じゃないんだから」
「サンキュ。いつか、ちゃんと話すから」
「うん、待ってる」

その時は私も話すから。

心の中で呟く。
一護には絶対聞こえない、約束。
自分との約束。

「うーん!お腹減った!ご飯食べよう」

せっかくのデートなのに、暗い雰囲気。
それを吹き飛ばすように、明るい声を出す。

「あぁ、そうだな」

それを察したのか、一護の声も明るい。

「今日は、お弁当作ってきたんだよ」
「・・・・・ちゃんと食えるンだろうな?」
「まっ!失礼なっ!!」

二人で笑いあいながら、ご飯を食べる。




ずっと、こんな日が続けばいいな。








青い林檎の種/宇野理衣さまへの捧げもの


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