おめでとう。の一言が言いたくて








「現在の時刻・・・9時なりっ」

公園のブランコに座る。
もちろん、帰ってくる亮を待つ為に。

「うぅ〜、上になんか羽織ってこればよかったかもぉ・・」

今の私の姿は、お気に入りのシャツとスカート。
シャツって言っても結構厚みがあるから大丈夫って思ってたんだけど。
9月なのに意外と寒くて。いや、9月だからか。

「おめでとうは言ったけど、やっぱお祝いもしたいもんね」

その時まですることがなく、何気なしにブランコを漕ぎ出す。
ゆらゆら揺れる視界。
空を仰ぐと見える、小さな小さな星たち。

「亮にとって、私の存在ってどれぐらいなんだろう・・・」

ふと呟いて、止まる。
そして考えてみる。
本当は本当の気持ちを言うと、誰よりも一番がいい。
でも、それはやっぱり無理な話で。
彼女という私よりも、亮は友達を優先する。
別にそれが嫌な訳じゃないし、そんな事を言って困らせたい訳じゃない。

「ん〜、亮帰ってこないなぁ・・・」

携帯の時計を見ると、9時30分と表示されていた。
私は、手馴れた手つきで亮の番号を引き出す。
プルルルと、聞きなれたコール音が聞こえて。

「もしもし」

3コール目で繋がった。

「あ、亮?」
「おう、か。どうした?」
「あ、あのね、今ドコに・・・」

言葉が最後まで言えなかったのは、後ろで声が聞こえたから。
聞きなれた声。
あぁ、部活の人達と騒いでるんだと思った。

「わりぃ、なんて言ったんだ?よく聞き取れなくてよ」
「う、ううん、何でもないよ」
?」
「ごめん、本当になんでもないの」
「・・・そっか?ならいいけどよ」
「うん、じゃあ、ね」
「・・・、お前今ドコにいるんだ?」

電話を切ろうとした瞬間、亮からの突然の質問。

「ドコって、もちろん家に決まってるじゃない」
「・・・本当だな?」
「うん、本当だよ」

嘘をつきたかった訳じゃないけど、本当の事も言えない。
亮の家の近くの公園に居るなんて。
折角の誕生日に心配させるのも気が引けるし。

「・・・・」
「亮?」
「嘘だろ」
「え?」

正直、絶対にばれないと思ってた。
なのにあっさりと、亮は嘘だと言う。

「どうしてそう思うの?」
「お前聞こえねぇのかよ。電車の踏み切り」
「あ・・・・」

カンカンと言う音と、電車が通過する音。
丁度、通過する音が聞こえたらしい。


「やだなぁ、ばれちゃった?実は今友達と別れた帰りなの」
「お前、ついてもばれるんだから嘘つくなよ」
「う、嘘じゃないもん」
「で、お前本当はドコにいるんだ?」

ちょっと怒りを含んだような声。

「・・・・亮の家の近くの公園」
「ったく、最初から言えよな」
「・・・・・・・言える訳ないじゃない」

亮の言葉が胸にチクッと刺さる。
泣く寸前様な震えた声。

?」
「亮、今部活の子達と騒いでるんでしょ?」
「あ、あぁまぁそうだけどよ」
「楽しんでる最中に来てなんて、言える訳ないじゃないっ。」
「・・・・・」
「っごめん・・・こんな事言うつもりじゃなかったのに。私はもう帰るから、皆と楽しんでね」

少しは笑えてたと思う。
少しは明るい声が出せたと思う。
言うつもりじゃなかった言葉。
言えなかった言葉。

『一緒にお祝いしたい』

たったその言葉だけが伝えられなかった。

「ズッ・・もう帰ろう・・・」

鼻を啜りながら立ち上がり、用意したプレゼントを手にする。

「プレゼントどうしよう・・折角だしポストに入れとこうかな」

明日じゃ誕生日が終わってしまう。
できる事なら、直接渡したかったけど。
呟き、亮の家に向かって歩き出した。

ッ」
「え!?」

絶対に聞くはずのない声。
振り返ると、息を切らした亮の姿が目に入る。

「な、何やってんの?こんな所で」
「はぁ?お前なぁ・・・」

はぁ〜と脱力し、座り込む亮。

「だ、大丈夫?」

私も傍に座り込む。

「ったく、もうちょっと素直になれよな」
「そのセリフ、亮にだけは言われたくありません」

さっき反省したところなのに、素直になれない。

「お前、急に電話切るしよ、ったくそのまま飛び出してきちまったぜ」
「・・・・ごめん」
「俺は別に謝って欲しいわけじゃねぇよ!」
「じゃぁ、なんなのよっ」
「お、俺だってお前と同じ気持ちなんだよっ!」

耳まで真っ赤にした亮が叫ぶ。

「同じ気持ちって・・?」
「俺だってお前と誕生日祝いたかったんだよ」
「ほ、本当?」
「嘘だったら、こんなとこまで走ってこねぇって」

嬉しくて、でも顔が上げられない。
だんだん視界が霞んでいく。
涙が溢れてるんだと分かったから。

「おい、?」
「エヘヘ、ありがとう」

ズッと鼻を啜る。

「バーカ、何泣いてんだよ」
「一緒の気持ちが嬉しかったんだもん、仕方ないでしょ?」
「あー、そうかよ」
「それに、亮が来てくれた」
「・・・・悪かった」
「もういいよ」

手で涙を拭いながら、顔を上げる。
ちょっとまだボヤけてるけど、しっかりと顔が見える。
亮の申し訳なさそうな顔。

「そんな顔しないでよ。折角の誕生日なんだから」
「分かった」
「それに、早く戻らないと皆心配するよ?私はいいから戻ったら?」
「いいんだよ、あいつらは」
「でも・・・」
「さっきも言っただろ。俺はお前に祝ってもらいたいって」

言うと同時に抱き寄せられる。
顔を上げようとすると、上を向くなと怒鳴られた。

「亮、顔真っ赤でしょ?」
「う、うるせぇッ!」

電話一本だけでここに来てくれた亮。

「亮、誕生日おめでとう」

そして私は、買ってきたプレゼントと頬にキスをした。






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