満 月
「・・・・・!」
「・・・・っ!?」
真っ白い、真っ白い、延々と続く真っ白の壁。
壁に気を取られてて前を見てなかった。
顔に走る衝撃。
ぶつかったと言う事は、目の前の男の人を見て分かった。
「貴女は、先刻つれて来られた方の・・・」
ビクリと肩が勝手に跳ねる。
あの後、織姫ちゃんがどうなったか分からない。
「・・・っ、・・・ッ!」
織姫ちゃんの事を聞こうとして、失敗した。
声が出ない。
「あぁ、そう言えば貴女は声が出ないのでしたね」
いつの間に知ったのだろうか、そう言われて頷く。
「もしかして、貴女と一緒に来た方の所に行くつもりですか?」
勘の鋭い人だ。
大きく頷くと、制服のポケットからメモとペンを出す。
『織姫ちゃんは、どこにいますか?』
上手く書けなかったけど、相手には伝わっているはず。
「残念ながら、貴女と彼女を会わせるわけにはいきません」
『どうして?』
「藍染様のご命令です」
突き放されて、どうしていいか分からない。
どうして、私が一緒にここに来たのかも分からない。
織姫ちゃんには、何か力があるみたいだけど、私にはそんな力なんてない。
闘った事だって、ないのに。
「貴女にも部屋が用意されているはずです。お戻りください」
「・・・・・っ!」
嫌々と首を横に振る。
彼の溜息と呆れの混じった顔。
一歩、近寄る足。
普通じゃない雰囲気を感じて、私は一歩下がる。
「お戻りください」
「・・・・・」
有無を言わさぬ威圧的な言葉。
それを聞けば力をもたぬ私はただ頷くしかない。
『道が分からない』
そうメモに書けば、ご案内しますと丁寧な言葉が返ってきた。
先を歩いて、私は後に続く。
規則正しく続く彼の足音に比べて、私の足音など全くと言っていいほど聞こえない。
「こちらです」
ガチャリと扉が開く。
ベッドと窓があるだけの、白い部屋。
ここに一人残されるのは、不安で仕方ない。
「それでは、僕はこれで」
グッと彼の服の袖を掴む。
「なにか」
怪訝そうな顔で見下ろされる。
慌てて服から手を離して、ペンを走らせる。
『案内してくれて、ありがとうございます。それからぶつかってごめんなさい』
お世辞にもキレイな字とは言えないけれど。
彼が出て行く前にと、急いで見せる。
「いいえ。それでは」
少し瞳を伏せた後、少しだけ微笑んだ顔。
手を伸ばそうとしたけど、その前に扉を閉められ手が宙を彷徨う。
名前、聞けばよかったな。
この場所には、優しい人もいるのね。
そうして窓を見上げれば、キレイな満月が煌々と光っていた。
メモ
あーあ、浮気性だなぁ、私。
しかも名前変換ない!ごめんなさい!
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