「ねぇ、ザギ」
「なんだ」
白輪までの険しい道のりを、ただひたすら歩く。
私の呼びかけに、振り向きもせず。
「ザギ」
もう一度、名前を呼ぶ。
すると、ひたすら歩いていた足がピタリと止まる。
クルリと振り向いた顔に、私は息を呑む。
不機嫌そうな顔。
「ちょっとだけ、休憩しよう?」
怒った顔を見た後では、言いにくかったけれど。
それでも、大きなため息を一つついただけで済んだのだから。
「ごめんね・・・」
少し顔を下げ、機嫌を伺う。
すると、思いの他機嫌が悪くなかったのか、こっちへ来いと手招きされる。
「何?どうしたの?」
近づいた瞬間、ニヤリと笑い、腕を引かれる。
腕を引かれた反動で、バランスを崩しザギに倒れ掛かる。
「相変わらず、隙が多いな」
ニヤリと笑ったまま、抱き込まれる。
言葉とは裏腹に、とても暖かい腕。
「ねぇ、ザギ」
「なんだ」
「私は、ザギの駒?」
「そうだ」
「ザギの物語に必要?」
「あぁ」
「そっか」
顔を上げ、そしてまた顔を胸に埋める。
そして、ぎゅうっと抱きしめる。
「駒じゃ不満か」
「そんな事、ないよ」
「なら、一生俺の駒であり続けろ。いいな」
「うん、分かった」
スっと離れていく温もり。
それを名残惜しそうに見てしまう。
そんな私に、ザギは相変わらずニヤリと笑みを浮かべたまま。
「そろそろ行くぞ」
「うん」
そして、私はまたザギの後ろを歩いていく。
彼の大事な物語の駒として。
そして、誰よりも愛しい人のために。
これが、私の物語
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