泣かないで







「いいじゃないですか」
「だめ。さっきから言ってるでしょ?」
「どうして?」
「私は忙しいの」
「けど、この間もそう言ってましたよね」
「・・何が言いたいの?」
「別に・・・俺、戻ります」


シュッと音がして、彼が出て行く。
その後ろ姿を見送り、深い溜息をつく。

「忙しいの。本当に」

机の上に乗っている、書類の山を見れば、先程と違う溜息が零れる。

「仕事しなくちゃ・・」

一人呟き、座ってたベッドから立ち上がる。
瞬間、クラリと目の前が歪む。

「あ、れ・・・?」

支える足が言う事を聞かず、その場に座り込む。
ドクドクと脈打つこめかみを押さえる。

「ダウンしてる場合じゃないのに・・・・」

もう一度力を入れて立ち上がる。
けれど、先程よりもヒドイ眩暈が襲ってきて。

「っ・・・・」

小さく呻き、私は意識を手放した。









声が聞こえる

『・・・さん』

誰の声?

『エリカ・・さんッ』

シ、ン?

さんッ』

あぁ、やっぱりシンね






さんッ」
「シ・・・ン?」
「よかった・・・大丈夫ですか?」

名前を呼ばれ、ゆっくり瞼を持ち上げる。
最初に目に入ったのは、心配したシンの顔。
なんだか、泣きそうな顔。

「シン?どうしたの・・・」
「どうしたって、あんたが倒れたって聞いて」

手を伸ばし、シンの頬に触れる。

「・・泣かないで?」
「何言ってんですか、泣いてないですよ」
「泣きそうな顔、してたから」
「それはあんたが、」

言いかけてそっぽを向く。
触れていた頬が離れ、手が行き場をなくして彷徨う。

「シン?」
「ごめん」

顔は見えないけれど、小さな声が聞こえてきた。

「何が?」
「俺がムリ言って、だから・・」

ゆっくりこちらを見る顔は、歪んでいて。
切なくなる。

「シン・・・大丈夫、私は大丈夫だから」

起き上がってシンを抱きしめる。

さんっ?!」
「だから、泣かないでね」
「・・・子ども扱いしないでください」

抱きしめて、優しく髪を梳く。
ぎこちなくシンの腕が背中に回される。

「倒れたって聞いて、心臓止まりそうだった」

言葉と共に背中に回された腕に力が篭る。
いつも強気の彼が見せる弱い姿。

「大丈夫、シンをおいていかないから」
「約束だからな」

顔を上げて、約束と唇を重ねた。






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