恋がひとつ消えてしまった








家から数十分の所にあるバス停。
いつもの長太郎との待ち合わせ場所。
一息つきながら横を向くと、一人の女の子が目に入った。

「あれ、あの子。私より先に来てたよね?」

私と少し離れた所にいる女の子。
その時、駅までのバスが到着した。
彼女は、下車する人を見ながら溜息をついた。

「あの子が持ってるの、手紙?」

彼女の手には、大事そうに手紙が握られていた。
それがラブレターだと分かるのに、そう時間は掛からなかった。
彼女は、好きな人を待ち続けているのだろう。

「告白・・かぁ」

何度もバスが止まり、その度に彼女から溜息がもれる。
トキメキから溜息に変わる瞬間。
まるで2年前の私を見ているみたいだった。

「きっと恋はかなうよ」

切なくなって、私は知らないうちにそう呟いていた。


あれからどれぐらい経っただろう。
何度目かのバスが彼女の前に止まった。
扉に向けた笑顔が泣き出した、一瞬のアクシデント。

「うそ・・」

綺麗な人の方を抱いている男の人。

「その人がさっきから待ってた人なの?」

ポツリと呟く声は、風に消えた。
声も掛けられなかった。ただ見送るだけ。
くるりと方向を変え、彼女は駅に向かって歩いていく。
胸の手紙を握り締めながら・・・
彼女の後姿から悲しみが伝わってくる。

「うっ・・・」

2年前の私と同じ場面。
辛い記憶がよみがえり、涙と嗚咽が零れた。


さーん!」

少し遠くから長太郎の声が聞こえてくる。

さんッ、すみません!たくさんお待たせしてッ・・・」

言いながら息を切らす長太郎。
返答のない私を不審に思い、長太郎が覗き込んでくる。

「え、さん?泣いてるんですか?どうしたんですか?」

いつもの優しさ。
そして、慌てている姿がぼやけてながら目に映る。

「あのね、今ね、恋がひとつ消えてしまったの」
「え・・?」
「傍で何も出来なくて悲しくなったの」
さん・・」

涙を拭いながら、長太郎に話す。
言い終わると長太郎は私を抱きしめてくれた。

「あの子の、次の恋がかなうこと祈ってあげたい」
「そうですね」
「私達みたいにね」

腕の中で顔を上げ、笑う。
もう涙も止まっていた。
2年前は辛かったけど、でも今は長太郎が居る。
私の大好きな人。

彼女にも素敵な人が現れるといい。

今は、それを願うばかりだった。
















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