#7







「おはよう」
「・・・・・・」

朝、けたたましい音に起こされる。
彼との生活も6日目に突入していた。

もうすぐ一週間か。早いもんだなぁ。

「ジェット」
「なんだ」

名を呼べば返事が帰ってくる。
これも当たり前になっていた。
私の名前は滅多に呼ばないけど。
呼ばれたら呼ばれたで、ドキドキするからね。

「今日は天気がいいから外に行こう」
「了解した」

この間買った服を渡す。
黒い長袖のシャツに黒いズボン。
コートを脱いだ時と大して変わらないけど。

「うーん、ピッタリ!似合ってるねッ」
「・・・・」

ピクリと眉が動いた。珍しいな。
私の言葉を受け入れてくれたのか、否か。

「じゃ、行こっか」
「あぁ」

久しぶりにワンピースなんて着る。
ここしばらくは着てなかった。
・・・・周りからみたらカップルに見えるかな?
って、何考えてんの私!
ジェットがか、彼氏なんて。
それもこの国の人じゃない、いつか帰るのに。








・・・・帰る?









そうだ、ジェットはいつかアルカディアに帰るんだった。

「どうして忘れてたんだろう」

前を歩く私の声はきっと彼には届いてない。
なんで私、こんなに辛いの?
胸が苦しいの?



呼ばれて、おかしいくらいに肩が跳ねた。

「どうした」
「べ、別に、何でもないよ。どうしたの?」
「通り過ぎている」
「え?」

すっと指で示される。
さっき告げた予定の場所はとっくに過ぎていた。

「あぁ、ごめんね」

ヒールの音を響かせて、彼に寄る。
瞳に私が映る。
一体どんな風に映っているんだろう。

「あ・・・・」
「なんだ」
「クレープだ」

甘い美味しそうな匂い。

「食べたいなぁ」
「・・・・・」

彼を見ると好きにしろと瞳で応える。
最初の内は何を思ってるのか分からなかったのに。
今じゃ、表情から少しだけど読み取れるようになった。

「ちょっと買ってくるから、あのイスに座って待っててね」











かろやかに走って行ってしまった。
示されたイスに座って待つ。
俺は一体どうしたというのだ。
この間・・・・あの女の涙を見てからおかしくなってしまった。
フラッシュバックするのはあの女のことばかりだ。

「俺は壊れてしまったのか?」

自分の掌を握り締める。
思い出す、涙の暖かさ。

・・・」
「何?」
「・・・・ッ!」

答えが返ってくるとは思わなかった。













ビックリした。いきなり名前呼ぶんだもん。
驚かそうと思ったのに・・・残念。

「はい、ジェット」
「なんだこれは」
「クレープだよ」
「・・・・・何故俺に渡す」

どうして俺に差し出す。
どうして俺を気遣う。
俺には理解不能なことばかりだ。
だがそれを不快だと思わないのは、何故なのか。



俺は・・・・・


「ジェット?」
「・・・・」
「やっぱりいらなかった?」

悲しそうな声が振る。
視線を向ければ、いつもの笑顔ではない笑み。
あの夜、涙を流した時の顔。
途端、ズキリと痛む胸。

「・・・・・・っ!!」
「ジェット?」
「なんでもない」

胸を押さえて、うなだれる彼。
ど、どうしたんだろう。まさかこ、故障とか?
大丈夫だって言うけど、大丈夫そうに見えない。
だけど、故障だったら困る・・・・私直せないよ。

「待ってて!今、何か・・・・っ?!」
「・・・・・・・・・行くな、
「え・・・・?」
「行かないでくれ」

ボタッと持っていたクレープが地に落ちる。
びっくりして、本当にびっくりして。
まさか、彼からこんな言葉が出てくるなんて。

「ジェ、ジェット、どうしちゃったの?」
「分からない、だが離れてほしくないと願ったのは事実だ」
「・・・・ジェット」

強く掴まれている手首が温かい。
ジェットの体温。

「どこにも行かないよ」
「・・・・・」
「ずっと傍にいるから。ジェットがいいって言うまで」
「そうか」

胸に広がる暖かい気持ち。
・・・・なんだ、これは。
これがもしや、恋や愛というものなのか。
そんな空想、俺には関係ないと思っていた。
そんなもの必要ないと。











嬉しかった。
行かないでほしいって言ってくれて。
私を必要としてくれて。
この胸に宿る気持ち。暖かい想い。
あぁ、私、彼の事好きなんだ。
6日の間に好きになってたなんて、気付きもしなかった。
だから帰るって思った時、ツラかったんだ。

「バカだな、私」
「どういう意味だ」
「なんでもないよ」

ジェットに渡すはずだったクレープを見る。

「食べないのか」
「食べていいの?」

問い掛けると無言の返答。

「ありがとう」

一瞬にして彼の表情が変わった。
目を見張るほど、柔らかく微笑んだ顔。
彼の笑みを初めて見た瞬間だった。


























メモ
二回目のデートです。
おほほ、何かが芽生えてきてますねv
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