#6







「すみませんでした・・・」
「まぁ、さんはいつもよく働いてくれてるから、大丈夫よ」
「はい、ありがとうございます」

・・・やってしまった。
久しぶりに仕事でのミス。
先輩には大丈夫と言われたけれど、私の心は晴れることもなく。




「ただいま」
「・・・・・」
「あ、ご飯まだだよね」
「俺に気を遣う必要はない」
「そう?なら今日はなくてもいい?」
「お前の好きにしろ」
「・・・分かった」

いつもなら別に気にならない彼の口調。
だけど、今日は胸に刺さる。


・・・やだな、こんな自分。


彼をよそに洗面所に向かう。
うわぁ、ひどい顔。
落ち込んでるのが一目でバッチリだ。
そのままお風呂に入って少しはスッキリするけど、それでも重い気持ちは引きずったまま。


「もう、寝るね」
「あぁ」

短いやりとり。
いつもはもう少し喋るのに、今日はその元気すらない。
人と話したくない。

「早く寝て忘れよ」

そう思って布団に入るのに、眠りは訪れてくれない。
それどころか今日の出来事を思い出すばかり。

「あぁー、もう」

仕事でミスはしないようにしてきた。
出来る事はすべてやってきた。
長い時間をかけて積み上げてきた自信もなくなってしまいそうだ。

「・・・・・・・・ずっ」

鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる。
ついに流れ出す涙は、枕に吸収されていく。

「ちょっと、落ち着こう」

言い聞かせるように起き上がり、ティッシュで涙を拭う。
そのまま力なくゴミ箱に投げ入れると、リビングに向かう。

「・・・ジェット」

私が帰ってきた時と同じように座っている彼。
その瞳は閉じられているけれど。
起こさないよう静かに隣に座る。
整った顔・・・・格好いいな。
口に出さずに彼の体に凭れかかる。

「なんだ」

途端、真紅の瞳に私が映る。

「・・・・ジェット、命令聞いて」
「頭、撫でてほしいの」
「それがお前の望みならば」

優しく頭に乗せられる大きな手。



なで なで なで


撫でられる度、引っ込んだ涙がまた集まる。

「何故泣く」

見られないようにしてたのに、目ざとく見つけてくる。

「今日、ちょっと仕事でミスしちゃって」
「・・・・・」
「今までミスしたことなかったらちょっと落ち込んじゃったの」
「機械の俺には理解不能な事柄だ」
「そっか。そうだよね」

何か言ってほしくて言ったわけじゃないけど。
機械には分からないこと・・・なのかな。
・・・確かにそうかもしれない。



なで なで なで



変わらずある暖かさ。

「私、明日からまたちゃんとできるかな」
「それはお前次第だ」
「私次第か」
「何故落ち込む必要がある」

分からないとばかりに問われる。
その問いかけに膝を抱えて考えてみる。

「それは・・・仕事でミスしたからで」
「それがどうした」
「どうしたって・・・・いろんな人に迷惑だってかけたし」
「お前は人間だ」
「そうだよ?」

ジェットが何を言わんとしているのか、さっぱり分からない。
頭を撫でる手はさっきと変わらない。
膝に埋めていた顔を上げて見つめる。

「お前は機械ではない。失敗して当然だろう」
「ジェット」

告げられた言葉は荒んだ心をあったかくしていってくれる。

「だから、泣くな」

まだ目尻に溜っていた涙を拭ってくれる。暖かい指。

「ありがとう、ジェット」
「礼を言われる事は何もしていない」
「だけど、ありがとう」

もういいよと頭を撫でていた手を掴む。
微かに驚いた顔。

「じゃ、寝るね」
「あぁ」
「おやすみ」

彼のお陰で明日はいつもの自分に戻れそうだ。

















「・・・なんだこの気持ちは」

涙に濡れた指。
その雫を握りしめる。

「何故俺はあんな事を」

気がつけば、体が勝手に動いていた。
神経回路にはそのような指令を出した覚えはない。

「中枢神経および神経回路のチェックを開始」
「異常なし」

エラーがないだと?
ならばこの胸の痛みはなんだ。
俺の意図しないところで身体が動くのは何故なんだ。


あの女も女王の卵同様危険因子だと言うのか。


、排除行動をとるべきか」

だが、俺の中の何かがそれを拒んでいる。

「俺は、オリジナルと同じく不良品なのか?」

問い掛けても答える者はいない。
ただ、手のひらに感じる涙の温かさと「おやすみ」と言ったあの笑顔だけが俺を支配していた。























メモ
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