#3
「洗濯機はこれね。使い方はさっき言った通りだから」
「了解した」
ゴウンゴウンと回る洗濯機を、顔色一つ変えず見つめている。
「次は掃除機。掃除機はこのボタンを押せば動くから」
これまたブウォーと音を立てながら動かす。
それを冷ややかな目で見下ろしている。
・・・・・大丈夫かな。
「これは何のアーティファクトだ」
「ア、アーティファクト?何それ」
ま、またややこしそうな横文字が。
聞き返すと、無表情で答えが返ってくる。
「お前の世界で言う、機械のことだ」
「あぁ、なるほど。これはゴミを吸い取ってくれる機械よ」
「これで掃除すれば、ほうきよりも早いの」
「そうか」
「と、言うわけで今日は部屋の掃除をお願いね」
笑顔を向けると、掃除機を受け取りこの一言。
「了解した」
彼が持つと掃除機も少し小さく見える。
音を立てながら、部屋の中を少しづつキレイにしていってくれる。
「流石ね、物覚えが早くて助かるわぁ!」
我ながらいい拾い物をしたとにやつく。
別に家事全部をしてもらうつもりはないけど、少しぐらは悪くないでしょう。
「任務完了だ。次は何をすればいい」
いつの間にやら掃除を終えた彼が、私の後ろに立っていた。
身長が高いから、私は毎回見上げる事になる。
「ありがとう、もういいよ。それじゃ、ちょっと休憩しよっか」
「・・・・・・」
「それにしても、変わった世界ね」
「どういう意味だ」
二人で向かい合って椅子に座る。
淹れたての温かい紅茶を啜る。
「ジェットを造る技術はあるのに、掃除機はないなんてって意味」
「俺は、エレンフリートによって造られた」
「エレンフリート?その人が貴方の主なのね」
「だが、今の主はお前だ」
一瞬、飲んでいた紅茶を噴出しそうになった。
まさか、今まで生きてきてそんな事を言われる日が来るとは思いもしなかったから。
慣れない言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
「ありがと。確かに私の方が偉いって言ったけど、主なんて言わなくていいよ」
「・・・・・お前は、あの女と同じだな」
「あの女?」
まさか、ジェットから『女』なんて単語が出てくるなんて思わなかった。
ジャスパードール・・・だっけ?造られた存在なら彼女なんてのもいないだろうと思っていたけど。
それは、私の思い過ごしだったのかしら。
「女王の卵、アンジェリーク」
「・・・・・・・・・また新しい単語が」
「アンジェリークはアルカディアを統べる女王の卵だ」
「へ、へぇ〜・・・」
最早頷くことしか出来ない。
女王様がアルカディアを統べる。
そういうの、王権社会って言うんだっけ?あ〜分かんない、忘れちゃった。
本当すごいなぁ、女王様の卵なんて。
「あの女も、お前も何故俺に礼を言う」
「え?だって、何かされたらありがとうって言うのは当たり前でしょう?」
「機械はただ与えられた事を実行するのみ。それ以上でもそれ以下でもない。礼など不要だ」
言われた言葉にちょっと驚く。
感謝の言葉を言わなくていいなんて、初めて言われた。
確かに目の前にいるのは、かなり精密な機械かもしれない。
だけど、私には最初から機械になんて思えない。
ちょっと無口な男の人にしか見えない。
「でも、私は貴方が機械だろうがなんだろうが、人と同じ扱いをするわ」
「・・・・・・・」
「ジェットには理解できないかもしれないけど、私にとっては大切な事だから」
「本当にお前は変わっている。俺には理解不能だ」
「それはそれは、ありがとう」
茶化したつもりで言った言葉が、彼を怪訝そうな顔に導く。
「今のは何のつもりだ」
「さぁ、なんでしょうねぇ〜」
「・・・・・・・・・」
なんてからかうと、またいつもの無表情に戻る。
本当、分かりやすいな。
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