P R A Y E R
「アポリー中尉」
「ん?なんだ?」
「腕の結合部、損傷がひどくないですか?」
隣でモビルスーツの整備をしていた中尉に声を掛ける。
「どれだ・・・・あぁ、確かにな」
「交換ですか?」
「いや、交換はまだいい。まだ使えるからな」
まじまじと損傷部分を見ながら話す。
「取り敢えずは、修理と塗装だな」
「了解です」
「まかせたぜ。あぁ、あと配線に気をつけろよー!」
「分かってまーす!」
また機体に向き直り、修理を始めた。
「おーい、どうだ?」
「あ、中尉」
それから一時間後。
自分の作業が終わったアポリー中尉が、こちらに向かってきた。
「なんとか終われそうです」
「へぇ・・・」
「なにか?」
意味ありげな視線。
「いや。最初はカミーユに付いて来ただけだったのになぁと思って」
「人員不足ですからね。それに、」
「それに?」
「役に立ちたいですから」
「・・・誰の?」
「え?あ、いや・・・それは・・」
本人を目の前にして、「あなたです」なんて言う勇気はない。
口ごもっていると、思いついた様にニヤニヤしながら、
「はは〜ん、さてはクワトロ大尉だな」
「へ?え、あ、違っ!」
「別に隠さなくてもいいだろ?ま、頑張れよ」
そう言って、私の好きな人はどこかに行ってしまった。
思い切り誤解したままで・・・
「ほう、の狙いはアポリーか」
「たっ、大尉?!」
後ろからした声に心臓が止まりそうになった。
「大尉、いつからいらしたんですかっ?」
「ん?百式の調整をしてたからな」
「じゃ、さっきのやりとり全部見てたんですか?」
「あぁ」
よりにもよって大尉に見られるなんて。
恥ずかしい以外の何者でもない。
「あ、あの大尉・・」
私の言いたい事が分かったのか大尉は、
「あぁ、分かってる。他言はしない」
「ありがとうございます」
「私は部屋に戻る。も休めよ」
「はい」
元気よく返事をして、リック・ディアスに向き直る。
「さぁ、あんたを綺麗にしてあげるからね」
どれだけ時間が掛かるか分からないが、私は外面を拭き始めた。
「、まだやってるのか?」
「中尉」
「いい加減休めよ。倒れるぞ」
「倒れませんよ、眠たくはなりますけど」
その間にも、せっせと磨く。
「よーし!アポリー中尉、リック・ディアス綺麗になったでしょう?」
「あぁ、本当だな」
「やっぱり綺麗な方がいいもんねぇ」
リックディアスの頭にきゅっと抱きつく。
「はZよりも百式よりも、こいつが気に入ってるんだな」
「はい!」
「そうか」
そう言うと、とても嬉しそうに笑ってくれた。
『モビルスーツ、第一戦闘配備!』
ブライト艦長の声が響き渡った。
「おっと、出撃だな」
「アポリー中尉、ちゃんと帰ってきてくださいね」
出撃命令が出るたびに、背筋が凍りそうになる。
けれど、敵は待ってくれない。
それは、分かっているけれど、やっぱり。
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるさ」
ワシャッと私の髪に触れる。
「アポリー中尉!出撃ですよ!」
「今行く!」
カミーユの声に急き立てられ、中尉の手が離れる。
「じゃな、」
「はい」
大きな音がして、ハッチが開く。
今日も明日も、無事に帰って来てくれますように。
そればかりを祈るのみだった。
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