私は貴方の力になりたいの。
それすらも、貴方は許してくれないの?






愛ゆえに





「だめだ」

にべもなく断られる。

「どうしてですか!?私も三成様のお役に立ちたいのです!」

裾を掴みながら、必死に訴える。
けれど、それが叶った事は一度もない。
私が戦場に出る事だけは、絶対に許してくれなかった。

「理由を言わねば分からぬか?」

冷ややかな目を向けられて、背筋が凍る。
分からないのかとバカにされているようで。

「・・・・・教えてください」
「邪魔だからだ」

一瞬何を言われたのか、理解できなかった。
その言葉は、私の心に深く突き刺さり、痛みをもたらした。
邪魔。その一言がとても痛くて・・・

『ただ役に立ちたい』

その思い自体が、三成様には邪魔なもので。
こんな想いを抱く私も、邪魔な存在で。

「分かったら、二度と戦場に行きたいと口にするな」

背中を向けられ、座敷を後にする。
後に残されたのは、惨めな私一人だけ。
悔しくて、それでも苦しくて、悲しくて。
声を殺して、私は泣いた。

「はぁあ、全く。見てられないね」
「・・・・・お、ねね、様」

スッと開いた襖から、おねね様が顔を覗かせた。

、大丈夫?」
「はい」

下を向いたまま答えるけれど、その言葉にどれだけ意味があるだろう。
大丈夫でない事ぐらい、おねね様にはバレているだろう。

「よしよし、いい子だからもう泣かないで」
「・・・・・は、いっ」

優しく頭を撫でてくれる、おねね様。
その優しさに、私の涙は溢れるばかりで。
ぎゅうとおねね様に抱きついた。

「おやおや、大きな子供だね」

クスクスと笑いながら、それでもあやす手はそのままで。

「本当に、三成は生きにくい子だねぇ」
「三成様は、私の事がお嫌いなのですね・・・」

赤い目で、おねね様を見上げる。

「そんな事ないよ。ただ、不器用なだけ」
「そう、でしょうか・・・」
「戦場は危険な所よ?それはも分かっているでしょ?」
「はい」

諭され、頷く。
戦場は危ない所。子供の頃から教わってきた。
女子供が行くところではない、と。

「それじゃ、三成がどうして許さないか、分かる?」
「それは・・・私が、邪魔だからで・・・・」

『邪魔だからだ』

その言葉が、頭の中を埋め尽くす。
反芻して、また涙が溢れた。

、それは違うわよ」

見上げると、おねね様の温かい笑顔。
ホッと安心できる笑顔。

「三成は、を危険な目に合わせたくないのよ」
「・・・・え?」
の事が大好きだから。だから戦場には来て欲しくないのよ」

私は、目をパチクリさせながら、おねね様を見た。

「ねね様、それ以上口に出さないで頂けますか?」

タンと音がして、三成様の声が聞こえた。
その声に、ビクッと背中が震える。
また、邪魔だと言われるのだろうか・・・
それが怖くて、私はおねね様の後ろに隠れた。

「三成があんなキツイ事言うから、怖がってるじゃない」
「おねね様には関係ないでしょう」
「関係あるのよ。こんな可愛い子を泣かすなんて。男の子でしょ」

女の子を泣かしちゃだめじゃない。なんて、おねね様からのお説教。
それを三成様はムスッとしながら聞いていたみたいで。
その証拠に、と呼ぶ声が不貞腐れていた。

「・・・・・」


もう一度呼ばれる。
今度は、なんて言われるんだろう。
ビクビクしながら、私はおねね様から少しだけ離れ、顔を出した。

「・・・・・・・はい」

直視できない。

「先は、その、悪かった」
「・・・え?」

私は、驚いて顔を上げる。
困った様な、三成様の顔。
こんな表情初めて見た。
いつも、堂々としていて、ちょっと偉そうで。
けれど今は、そんな雰囲気が微塵も感じられなくて。

「あ、あの・・・」
「邪魔だと言って、悪かった」
「けれど、それは本当の事で・・・」

よくよく考えてみれば、私は戦場で何もできない。
おねね様達みたい戦う事も、支える事も。
私に出来るのは、傍にいる事だけ。

「考えてみれば、戦場に出て私に出来る事は何もないんですよね」
「・・・・・・」
「浅はかだったと、反省しております」

「困らせるような事ばかり言って、ごめんなさい」

ペコリと頭を下げる。
これで三成様が許してくださるかどうかは、分からないけれど。

、頭を上げろ」
「三成様」
「邪魔だと言ったのは、お前が危険な目に会うからだ」
「三、成様?」
「私の言い方が、悪かった」
「わ、たしは、邪魔ではないのです・・・か?」

どんどん視界が霞んでいく。
大好きな三成様の顔がよく見えない。

「邪魔ではない」

自分の顔を手で覆った。
嬉しかった、すごく。
自分の存在が邪魔でなかった事に。
何より、三成様の口からその言葉が聞けた事に。

、辛い思いをさせてすまなかった」
「いいえっ、三成様」
「よかったね、
「はいっ」

おねね様が、微笑んでくれる。
もう、けんかはしちゃだめよ。と言い残しパタンと座敷から出て行くおねね様。

「全く、あの人は」

閉じた襖を見て、三成様が呟く。
声は嫌そうだけれど、顔はとても優しかった。


「はい、三成様」
「戦場には連れて行けぬが、これから庭を散歩しないか」
「私でよければ、是非に」
「お前でないとだめなのだ。

優しい言葉の後には、優しい口付けが。
そして、私達はゆっくりと歩き始めた。




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