ウソツキ







「和久井さんの、ウソツキッ!」

久しぶりのお休み。
この日は前々からの約束をしていた日。
私がこの日をどれだけ楽しみにしていたことか。

、すまない。だがペラを仕上げてしまわないと」
「この間の休みもそうでしたよねッ?」
「う・・・」

グッと黙ってしまった和久井さん。
競艇選手が大変なのは、よく分かっている。
だけど、24時間の内半分ぐらい私との時間にしてくれてもいいと思う。

、すまない」

ペコリと頭を下げる和久井さん。
どうあっても、プロペラを仕上げるつもりらしい。

「・・・もういいです。和久井さんは私との時間よりも、プロペラ叩いてる方が好きなんですよね」
、それは」
「いいです、聞きたくありません。プロペラでもなんでもお好きにどうぞっ!!」
「あ、おい、!」

後ろで和久井さんの声が聞こえたけど、私は振り向かなかった。
いつもいつもごめんの一言。
約束をしても、また破られるんじゃないかという不安。
楽しみもあるけど、不安の方が大きかった日々。

「和久井さんの・・・・バカ」

グイっと涙を拭い、私は、ある場所に向かった。





「でぇ〜ねぇッ、和久井さんってばデートの約束すっぽかしたのよぉう・・ヒックっ」
「おい、飲みすぎだろ」
ちゃん、もう止めたら?」
「や!飲むっ!ちょっとぉ〜波多野く〜ん、ちゃんと聞いてんのぅ?」
「聞いてる、聞いてるから。はぁ〜、何事かと思ってきてみれば・・・」

グビグビとお酒を飲みながら、隣で波多野くんの溜息が聞こえる。
あの後、私は澄ちゃんのお店に来た。
真昼間からお酒はどうかなとも思ったけど、やってられなかったから。

「澄ちゃんっ!おかーりッ」
「ちょっと、本当に止めたほうがいいってば」
「いやー!飲むのよー、今日の事を忘れるぐらいまで飲むのッ」
「お、おい、。いい加減に」

ビンから飲もうとしている私を、波多野くんの腕が遮ったその時、

ッ」
「あ、和久井さんっ、も〜遅いっすよ〜」
「悪いな、波多野」

ガラッとドアが開く音がして、和久井さんが入ってきた。
私はと言えば、飲む手を休めただ固まっていた。

「ほら、帰るぞ」
「・・・・・」
?」

返事をしない私を不審に思ったのだろう。
和久井さんが、顔を覗き込む。

?」
「いや、帰ぇりません」

目が合うのが恥ずかしくて、なんだか情けなくて私は顔を背けた。

「それじゃ、今日の約束はどうするんだ?」

衝撃的な一言

「何言ってんれすかッ、それは和久井さんが先に・・・破ったんれしょーが」

呂律のまわらない舌で、和久井さんを睨みながら話す。

「それは、悪かった。だが用事はもう済ませてきた」
「・・・へ?」
「小池さんには悪いが、まかせてきた」
「ほ、本当に?」
「あぁ、だから時間が空いてるんだ」

にこやかに笑う和久井さんに、私はガバッと抱きついた。

「あ、ありがとうございますッ」
「別に礼を言うほどの事じゃないだろ?」
「でも、嬉しいから」
「そうか」

声色からして、きっと笑ってくれてるんだと思う。
顔を上げると、私の好きな優しい笑顔。

「波多野、迷惑を掛けたな」
「いいっすよ、これぐらい」
「あんまり、泣かさないでくださいね?その度に自棄酒に走るんで」
「分かりました」
「・・・澄ちゃん、お金はまた持ってくるから」
「はいはい、楽しんできてね」
「じゃあな、波多野」

店を出て、和久井さんを見る。

「さて、どこに行きたい?」
「和久井さんと一緒なら、どこでもいいです」

面食らったような和久井さんの表情。
その表情にクスクス笑いならがら、歩き出した。




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