ためらい








あの事件から一年が経った。
私と大ちゃんは高校生、広海お兄ちゃんは二年生になった。
あれから、私はあの事件について、一切触れていない。

「ねぇ、広海お兄ちゃん」
「あ?何だよ、

お茶を飲みながらテレビを見ているお兄ちゃんが、私を見た。

「あ、あのさ・・・その〜」
「何だよ?さっさと言え」
「分かってるよ!だ、だからね・・・あの事件についてなんだけど・・・」

『あの事件』と言った瞬間、広海お兄ちゃんの動きが止まった。

「・・・それが、どうかしたのか?」

食器を洗っていた私に、投げ掛けられる言葉。
その言葉の冷たさに、私はどうしていいか分からなくなった。
広海お兄ちゃんにとっては、いい出来事ではない。
一年も経った今、蒸し返して私はどうしたいのだろう。

「・・・ごめんなさい」
「はぁ、謝るぐらいなら最初から聞くなよ」
「違う、聞いたことにじゃないの・・・・」

ギュッとシンクを掴みながら、下を向いて話す。

「あの時、お兄ちゃんが辛い時に、何もできなかったから・・・」
「あ?」
「私が辛い時は、力になってくれるのに、私何も出来なかったから」
「・・・
「だから、ごめんなさいっ」

シンクを掴んでいた腕にポタッと雫が落ちる。
後ろで、お兄ちゃんが溜息をついたのが分かった。
そして、私の傍に来て、

「バーカ、んなことお前が気にしなくていいんだよ」

ポンと頭に置かれる手。
その瞬間、私は、広海お兄ちゃんに抱きついた。

「うわっ!お、おいっ」

広海お兄ちゃんの慌てた声が上がる。
でも、私は離れなかった。
否、離れられなかった。
流した涙を見られたくなかったから。

「なーつーみーっ、離れろーっ!兄貴にでも見つかったらッ」
「ほう、俺がどうしたって、広海」
「ゲッ!兄貴!」

リビングのドアに凭れ掛かりながら、低い声を出す陽一お兄ちゃん。

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

鼻声で、顔を上げず話す。

「あぁ。それより、二人で何やってたんだ?お兄ちゃんに説明してくれるよな、

その後、少々不機嫌な陽一お兄ちゃんに、事の経緯を話す羽目になったのは言うまでもない。




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